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名古屋地方裁判所 平成2年(わ)890号 判決

国籍

韓国(慶尚南道昌原郡鎭田面五西里五九九)

住居

名古屋市南区元塩町三丁目二番地

会社役員

村上英吉こと

朴龍壽

一九四一年五月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官中山敬規出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、名古屋市南区元塩町三丁目二番地に居住し、同区元塩町三丁目一番地の二において、「ムラケン」の名称で建設請負業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際し、所得金額に関する正当な収支計算をせず、適宜の過小な所得金額を計上するなどの方法により

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が六六五八万一七九五円であつた(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六二年三月一三日、名古屋市熱田区花表町七番一七号の所轄熱田税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が一五三八万五六三一円で、これに対する所得税額が四〇〇万九二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三四二八万三六〇〇円と右申告税額との差額三〇二七万四四〇〇円(別紙二脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が七三四三万六一一七円であつた(別紙三修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六三年三月一五日、前記熱田税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が一六四八万九二一二円で、これに対する所得税額が四三九万三三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三六〇三万三五〇〇円と右申告税額との差額三一六四万〇二〇〇円(別紙四脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六三年分の実際総所得金額が四三二一万三九七七円であつた(別紙五修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成元年三月一四日、前記熱田税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が一七四三万〇三六八円で、これに対する所得税額が四三八万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一六八五万一五〇〇円と右申告税額との差額一二四六万三五〇〇円(別紙六脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通)

一  被告人の収税官吏に対する質問てん末書(一七通)

一  森山廣一こと李廣一の検察官に対する供述調書

一  鶴野勇雄(三通)、森山廣一こと李廣一(二通)の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書(売上げ等について)(特に修正損益計算書の勘定科目の〈1〉売上につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑収入について)(特に前記科目の〈2〉の雑収入につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(労務費について)(特に前記科目の〈3〉労務費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(減価償却費等について)(特に前記科目の〈4〉減価償却、〈9〉除却損、〈12〉譲渡所得につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(利子割引料等について)(特に前記科目の〈5〉利子割引料につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(接待交際費等について)(特に前記科目の〈6〉接待交際費等、〈7〉福利厚生費、〈8〉労務者賄費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑損について)(特に前記科目の〈13〉雑損につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑費について)(特に前記科目の〈10〉雑費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑所得について)(特に前記科目の〈11〉雑所得につき)

一  収税官吏作成の脱税額計算書説明資料

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六一年分)

一  熱田税務署長作成の証明書(昭和六一年分確定申告)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六二年分)

一  熱田税務署長作成の証明書(昭和六二年分確定申告)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六三年分)

一  熱田税務署長作成の証明書(昭和六三年分確定申告)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、昭和四八年ころ以降個人で建設請負業を営み、大手の業者から建設請負工事や右業者に対する人夫派遣の仕事をしていた被告人が、昭和六一年から同六三年までの所得税に関し、売上、雑収入(労務者の給料から天引きしていた食事代、アパート代等による収入)の一部を除外し、適宜の過少な所得金額を計上して虚偽過少の確定申告をし、三年間に七四三七万円余の所得税をほ脱していたという事案である。

そのほ脱税額は高額であるが、ほ脱税率をみても、昭和六一年と同六二年分は約八八パーセント、同六三年分は約七四パーセントであつて、三年間の平均でも八五パーセント以上の高率であり、結果としては悪質な脱税である。

そして、被告人は、その動機として、〈1〉金銭的に惨あな思いをして育つてきたので、困つたときのための財産を蓄えなければならないと思つていたこと、〈2〉脱税は誰でもしていることだから自分だけまともに払うのは馬鹿らしいと思つていたこと、〈3〉将来事業経営がいきづまつたときのために事業主の心構えとして財産を蓄えておこうと思つていたことなどを述べるが、被告人の生い立ちなどからその動機については理解ができる部分がないわけではないが、脱税の動機として斟酌すべきものがあるとは言えないし、被告人自ら本件以前の数年前から同様の行為をしていたと述べており、本件は常習的な犯行であると考えられるのであつて、以上の事情を考えると被告人の刑事責任には重いものがあると言わざるを得ない。

しかし、被告人は、本件起訴の以前に本件起訴に係る三年分の所得税について、修正申告のうえ本税、重加算税、延滞税を完納していること、本件脱税の方法は、帳簿の改ざん、虚偽の証拠の作出等の事前の積極的な所得秘匿工作を伴うものではなく、確定申告に当たり適宜の過少な所得金額を計上して虚偽過少の申告をしたという単純なもので、とりわけ悪質なものではないこと、被告人は国税局の査察調査を受けた後、捜査、公判を通じて事実を認め、反省の態度を示していること、被告人は、平成二年三月に有限会社「ムラケン」を設立し、従来の事業を法人組織により行うこととし、経理面についても組織を改善し、税理士の指導の下に今後は適正な納税を心がけることを誓つていることなど斟酌すべき事情もあるので、これらを勘案して被告人に対し、主文のとおりの懲役刑と罰金刑とを科することとするが、懲役刑についてはその執行を猶予することとする。

(求刑 懲役一年及び罰金二五〇〇万円)

よつて、主文のとおり判決する。

(弁護人 山岸赳夫、成田龍一、辻徹)

(裁判官 石山容示)

別紙一

修正損益計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

別紙二

脱税額計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

所得税の速算表

(昭和60年、61年)

〈省略〉

別紙三

修正損益計算書

自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

〈省略〉

別紙四

脱税額計算書

自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

所得税の速算表

(昭和62年)

〈省略〉

別紙五

修正損益計算書

自 昭和63年1月1日

至 昭和63年12月31日

〈省略〉

別紙六

脱税額計算書

自 昭和63年1月1日

至 昭和63年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

所得税の速算表

(昭和63年)

〈省略〉

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